ROAD TO NIRVANA

愛とポエムとお花のブログ。ときどき書評。たまに映画レビューとか。

最後に言葉ありき/ヨコハマトリエンナーレ 2014 ⑤

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前回、ヨコハマトリエンナーレの記事を書いて2週間も過ぎてしまった。このままでは、新港ピアに行ったことさえも忘却の海の藻屑となってしまう恐れがあるので、記録に残しておきたい。過ぎたことは電光石火のごとく忘れてしまうおれとしては、2週間以上前のこととなると、すでに確固とした記憶ではなく、半固形というか、ゼリー状というか、湯葉というか、そんな印象である。ちなみに湯葉と言えば、日光が割と有名らしい。遠い昔、日光を訪れたとき、街の一角に「日光のおいしい水」と書かれていた湧き水コーナーみたいな場所があって、そこは誰でもただで飲めるようになっていたのでおれも飲んでみたら、たちまち激しい下痢に襲われたことを思い出した。

こういう風に、書いているうちに思い出すということは、よくあることだ。書くことで、どこにあるのかないのか知らないが記憶のクラウドのような場所にアクセスするのだ。ただ、必ずしも自分が意図する記憶に直結するわけではないというところが難点と言えば難点だが、思い出すものは仕方がない。人類がいまだに海底に潜むすべてを把握できないように、そもそも記憶はコントロールできるような代物ではないからだ。

そんなわけで、おれは2週間以上前に、ヨコハマトリエンナーレ2014のもうひとつの会場である新港ピアを訪れた。

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▼最初に目を引くのは、祭りの山車を思わせるやなぎみわ制作の移動舞台トレーラーだ。YANAGI Miwa やなぎみわ | アーティスト | ヨコハマトリエンナーレ2014

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中上健次原作の『日輪の翼』のために制作されたという。こんなところで中上健次の名前を目にするとは思わなかった。

『日輪の翼』、『讃歌』、そして未完に終わった『異族』へと続く一連の物語の断片的な記憶が蘇り、現在と混じり合う。広島で被爆した人々のモノクロの写真と混じり合う。白い壁に飛び散った血糊のひとつひとつは楽器であり、動物である。白い壁に飛び散った血糊の一滴一滴に物語がある。テレビのワイドショーは決して「血糊」をクローズアップしない。テレビのワイドショーは決して「物語」を語らない。

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葛西絵里香作⇅KASAI Erika 葛西絵里香 | アーティスト | ヨコハマトリエンナーレ2014

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いくら多様性に満ちていても、いくら意匠を凝らしても、募金箱の目的はたったひとつだ。KASAHARA Emiko 笠原恵実子 | アーティスト | ヨコハマトリエンナーレ2014

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▼見透かしたように、イライアス・ハンセンが囁く。オブジェとキャプションが反転する。Elias HANSEN イライアス・ハンセン | アーティスト | ヨコハマトリエンナーレ2014

「そんなこと気にしない」
「心配するな、再来年にはもっとひどいことになる」
「手に入れたもの全てをしっかりとつかまえておけ、手の中にあると思ったもの全てを」
「見かけとは違う」
「明日はとてつもなく寂しくなるかも」
「ならばいつか言うことがなくなる」
「出口はある、でもここからは抜け出せない」
「他に行く場所などない」
「好きなだけわめくがいい、でもそれではなんともならない」
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そして、人類の消滅を煽る巨大な垂れ幕がトドメを刺す。MATSUZAWA Yutaka 松澤 宥 | アーティスト | ヨコハマトリエンナーレ2014
 
残るのは言葉だけだった。あるいは、言葉でしか描写しようのない印象のようなものだけが残った。

 

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アーティスティックな値段のカフェを素通りしてフェンスに囲まれたテラスに出る。その隅に置かれた灰皿の前で一服つける。フェンスの外に警備員のおじさんが立っている。

「何の警備ですか」と尋ねると、おじさんは、そっち側からこっち側に人が来ないようにですというようなことを言う。

「そんな人がいるんですか」

「まあいないとは思いますけど、万が一のためということじゃないですかね」

フェンスの向こうに海上保安庁の巡視船が停泊している。

「ああ…」と曖昧な返事をして、「何時間くらい勤務されるんですか」と話を変えると、「12時間です」と言う。

「長いですね」

「長いです」

「お疲れ様です」そう言うと、警備員のおじさんは無線でどこかにいる仲間に何か話してフェンスから離れる。

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タバコをもみ消し灰皿に放る。フェンスの向こうの横浜港を見るともなしに見る。今しがた見たばかりのハンセンの、オブジェではなく、世迷い言のような言葉を思い出す。

 

「出口はある、でもここからは抜け出せない」

 

 

忘却の海に溺れる/ヨコハマトリエンナーレ2014 ① - ROAD TO NIRVANA

 

 

芸術と漂流/ヨコハマトリエンナーレ 2014 ② - ROAD TO NIRVANA

 

 

People who has slippery brain are walking in conspiracy /ヨコハマトリエンナーレ 2014 ③ - ROAD TO NIRVANA

 

 

出口なし!/ヨコハマトリエンナーレ 2014 ④ - ROAD TO NIRVANA