イグニス・ファトゥス
午前中で仕事が片付いた。喜ばしいことだが、午後から特に何もすることがない。ぽっかりと空いた穴を覗いているような気分になる。
そのまま家に籠るのも芸がないと思い、荷物だけ置いてまた家を出る。
今では荷物入れとなった幼児用のカートが荷台に付けっ放しの自転車でふらふらと家を出る。
新山下のドンキで何を買うわけでもなく歯磨き粉とかウインドブレーカーとかiPhoneケースとかエアマットとかを漫然と眺めた後、手ぶらで店を出る。
潰れた銀杏の香りにむせながらパタゴニア関内店を覗く。ドンキで見たウインドブレーカーと一桁違う値段の品々が当たり前のように並んでいる。白人の夫婦(なのかそうでないのか知る由もないが)がカーゴパンツを手に取り、何か話している。手触りについて話しているのかもしれないと思う。おれもいくつかの商品を手に取り、値札を見る。白人夫婦は値札を見ない。思ったほど、バックパックは置いていないことを確認して店を出る。手ぶらで。
再び新山下に戻りホームセンターを彷徨う。ノートとかヤッケとか電動歯ブラシとか電動ノコギリとか電動ドリルとかを漫然と眺める。
手ぶらで店を出る。
どこかでハッピーハロウィンと言う声を聴いたような気がするが幻聴かもしれない。
あのくり抜かれたカボチャ、ジャック・オー・ランタンの元は鬼火だという。堕落した人間の魂だという。あるいは愚か者の火。あるいは寄る辺なき魂。
仮装した子供らとすれ違うおれはイグニス・ファトゥス。
くり抜かれた南瓜から世間を眺める。