ROAD TO NIRVANA

愛とポエムとお花のブログ。ときどき書評。たまに映画レビューとか。

お笑いカフカ

ピンクの衣装を身に纏った彼はおもむろに自作の紙芝居を始めた。

鉄拳以来だろうか、ありがちな芸だと思いながらさして期待せずにテレビを眺めていた。

そのうち、おれの中で、笑いの泡がブクブクと音を立てて湧き上がってきた。そして、笑いの後には決して解明されることのない謎が打ち上げられ、永遠に放置されるのだった。

キヌエおばあちゃんとは誰か。あの青年は何者で、なぜあんなにたくさんのパンを所持しているのか。キヌエおばあちゃんはなぜ風呂敷にドリルヘッドを包んでいたのか。そしてどこに向かっていたのか。それは、おれに「われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこに行くのか」というゴーギャンの絵画のタイトルを思い出させる。ここで、ZAZYこそ失われた紙芝居芸の継承者であるなどと論じても無意味だろう。ZAZYと名乗る紙芝居屋はテレビに奪われた場をテレビの中で奪還したのだと言っても無意味だろう。ZAZYの芸を観たわれわれはカフカの「城」を読んだ後のような不条理な感覚に包まれるしかない。

それが「城」だったのかは忘れたが、カフカの小説にはファシズムの到来を予見していたのだというような解説を読んだ記憶がある。

それでは、ZAZYの不条理な紙芝居は何の到来を予見しているのだろうか。

いずれにせよおれたちは、Whale Watching Time を生きていることは間違いない。