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ROAD TO NIRVANA

愛とポエムとお花のブログ。ときどき書評。たまに映画レビューとか。

我々は「出会いこそ生きる力」だと本当に言えるだろうか?

Event 随想 日記 イベント

『全国中学生人権作文コンテスト横浜市大会表彰式ならびに人権啓発講演会』というものに行ってきた。

場所は、横浜市神奈川公会堂。

息子が人権作文で表彰されることになった、からではない。そもそも息子は作文どころか、文章を書くのが大の苦手なので読書感想文の課題などが出された日には七転八倒して悶えながら、やっと3行書けたらいい方という有様だ。

そういうわけで、おれの目的は、第2部のサヘル・ローズさんの講演会だった。

先月のいつか忘れたが、図書館の掲示板で今回の講演会のポスターを見て、「誰だ、この綺麗なお姉さんは?」と足を止め、初めてサヘル・ローズさんのことを知った。

ネットで検索してみると、かなりハードな幼少期を過ごしていることが分かり、そんな彼女がどんな話をするのか気になったので、今回の講演会に応募して当選した。

サラッと「かなりハード」と書いたが、実際はそれどころではない。よくテレビ番組とかで紹介される誰かの波乱万丈ストーリーなど、さざ波程度に思えてしまうほどだ。

講演の内容は、ネットで知ったこととそう変わるものではなかったが、あらためて本人の口から語られるのを実際に耳にすると、やはり茫然とするしかなかった。

イラン・イラク戦争によって、家族を失い、自分の本名や生年月日も知らないうちに孤児院に送られ、やがて養母に引き取られ、その養母はサヘルを養女にするなら勘当だと実家から縁を切られ、イランで暮らすことはもう無理だと日本で暮らしていた養母の夫を頼って、来日し、やっと平和な暮らしを手に入れたと思ったら、養父からの虐待に遭い、養母と共に家を出され、2週間の公園暮らしとなったものの周囲の人たちの温情によって、部屋を借り、毎日を切り詰めてその日その日を切り抜けて、中学生になった途端に、日本人の生徒たちによるイジメが始まり、とうとう心折れて自殺を考えたのだが……というような話を明るく話すことのできるサヘルさんの「強さ」に圧倒された。

本人は、それは日本のみなさんの暖かい心のおかげですみたいなことを言っていた。

それはそうなのだろうと思うが、そう思える人は今のこの国にどれくらいいるのだろうか。

暖かい心と言えば、苦境にあった頃のサヘルさんたちに手を差し伸べてくれた人たちとサヘルさんは今も付き合いがあるという。

ホームレスとなったサヘルさんたちを家に住まわせてくれたという当時通っていた小学校の給食のおばさん宅には毎年しょうがつに顔を出すのだという。

養母おかあさんの仕事場に「キセル」して会いに行っていたサヘルさんを見咎めながらも、その後サヘルさんの電車賃をずっと出してくれた駅員さんには、のちに自分が働いて稼いだ金を持って会いに行ったという。

おれはペルシャ生まれの女の子に、「仁義」とはこういうことだと教えられた思いがした。

そして、もうひとつ。

イランでの貧しい過酷な日々よりも、日本の中学校生活で味わったイジメの日々の方が「地獄」であったということだ。

この国でイジメに遭って自殺した子どもらもたぶん同じ心境だったのだろう。

おそらくこの国のイジメは子どもらにとって空爆よりも絶望的なのだ。

ただ、その「空爆」は大人たちの目には見えない。そして聞こえない。

もちろん、今回特に触れなかったが、各賞を受賞した中学生たちは弱者を見捨てるような真似はしないだろう。

約90分の講演はたちまち過ぎていった。

講演の最後に、サヘルさんが「少し時間があるので何か質問がありますか?」と言った。

3人が質問をしたが、その3人目のおじさんの質問というか発言が実に「日本的」だった。

「サヘルさんが結婚するときは、是非日本の男性としてください」

そして会場に小さな笑いが起こった。

それだけのことだが、この悪気がない発言が喉に魚の小骨のように引っかかった。

おれは心の中で、「おっさんあんたは彼女の親戚が何かなのか?」と呟き、「結婚しようがすまいが大きなお世話なんじゃ」と思ったが、サヘルさんは笑顔で今のところは結婚のことは考えていませんというようなことを返すのだった。

おれもおっさんだが、おっさんの言うことなど80%が寝言に過ぎない。そして残りの20%は誰かの受け売りだ。

そんなおめでたい日本人のことを彼女はどう考えているのだろうか。

彼女の言葉を思い出す。

「日本は素晴らしい国です。でも平和ボケしないでください」

「私が今在るのは素晴らしい出会いがあったからです」

「人は一人で生きているのではなく、生かされているんです」

強さとは感謝できる心のことだ。

サヘル・ローズ オフィシャルブログ「sahel日記」Powered by Ameba

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