ROAD TO NIRVANA

愛とポエムとお花のブログ。ときどき書評。たまに映画レビューとか。

ハッピーマンデーにアンハッピーな映画を観る/『渇き。』

ハッピーマンデー

遠い昔、『I don't like mondays』というブームタウンラッツのスマッシュヒット曲があった。

1979年にバンドにとって2曲目の全英ナンバーワンヒットとなった。この楽曲の原題の意は『月曜日は嫌い』であり、1979年1月29日月曜日にアメリカで発生した16歳の少女による銃乱射事件がモチーフとなっている。犯行後に「どうしてこのような事件を起こしたのか?」と訊かれた少女が「I don't like Mondays」と答えた事にちなむ。歌詞の内容もこの事件に着想して書かれたものである。

月曜日が嫌いだから、銃を乱射するということは、うどんが嫌いだから蕎麦を食べるのとはわけが違う。

端的に言えば、「システム」への過剰適応の為せる技なのだろうと思うが、違うかもしれない。

それはともかく、そんな「社会派」のロックナンバーが生まれて、30年以上の時を経た今、月曜日はなぜかハッピーな曜日となった。

つまり、ハッピーマンデーである。

何がハッピーなのか。

端的に言えば、「割引き」があるのだ。

何が割引きされるのか。

映画料金である。

そういうわけで、七夕の今日、みなとみらい|イオンシネマで映画を観てきた。

毎週月曜日は、「ハッピーマンデー」ということで、全作品が一律¥1,100で鑑賞できる。

まあ客寄せに大変なのは、牛丼屋だけではないということだ。

だから、牛丼屋もハッピーマンデーを導入したらいいのではないかと閃いたが、これ以上の値下げは難しい気もするので、牛丼屋各社がそれぞれ曜日を決めて割引きデーを設定すれば、共存の道が開かれるのではないだろうか、などと思ったが、それはそれで自由競争の観点からすれば、いかがなものかと水をさす人も出てきて面倒なことになるかもしれない。ハッピーになるのもなかなか難しいご時世ではある。

しかし少なくとも、イオンシネマ系列においては、誰が何と言おうと、今日はハッピーマンデーである。

そして、『渇き。』を観る

そんなハッピーなマンデーに観たのは、中島哲也監督の『渇き。』である。👉映画『渇き。』公式サイト

どのような映画だったかと言うと、ちょっと前に流行った韓流映画の『オールド・ボーイ』のような、まあ過激を通り越して、ひたすらグロい救いようのない話だった。

f:id:go-nirvana:20140707154909j:plain

で、今思いついただけだが、『オールド・ボーイ』の主人公デスを演じたチェ・ミンシクは、『渇き。』の主人公役所広司に似ているが、中島監督が『オールド・ボーイ』を意識していたかどうかはもちろん分からない。

分からないが、残念ながらこうした映画は、おれがふつうに『オールド・ボーイ』を思い出したように、10年前は衝撃的な映像だったかもしれないが、すでに「旬」ではない、と思う。

だから、おれは途中からストーリーではなく、俳優たちの「キレた」演技を楽しむことにした。

映画は今をときめく日本の俳優たちが、普段の「イメージ」をかなぐり捨てて、無慈悲で悲惨な演技を繰り広げていた。

それはそれで「楽しめた」が、まあそれだけだったというのが、正直な感想だ。

なんて言うか、日本の俳優たちはCMに出過ぎなのだろう。

どんなに役所広司がキレた演技をしても、ダイワハウスのCMを思い出すし、ニヤニヤ笑ってチュッパチャプスを舐める悪徳刑事役の妻夫木聡を観ても、「ああ見えても、実はこの兄ちゃんは真面目で、いいやつなんだ」と、「おとなエレベータに乗って、色んな有名人と語り合う映像が浮かんでくる。

そんなこんなで、CMで刷り込まれたイメージを払拭することはかなり困難な作業だということがあらためてよく分かったし、こうしたリスクゆえに外国の俳優たちはあまりCMに出ないのだろうと腑に落ちた。

で、肝心の映画の内容だが、イジメ、虐待、薬物汚染、家庭崩壊、半グレ、汚職、癒着…といった現代社会の問題が福袋さながらに詰め込まれている。

詰め込まれているが、繰り広げられる凄惨な暴力描写によって、それら諸問題は拡散されて、「空気」のようなものとなっている。

そういう意味では、この映画は現代日本に蔓延しつつあるこうした「空気」をコンテクストとし、「暴力」をそのコンテンツとしたということが言えるかもしれない。

それがどうしたという話だが、ただそう思ったから書いただけでそれ以上の他意はない。

強いて、教訓を導き出すとすれば、歪んだコンテンツは、歪んだコンテクストから生まれる、ということだ。

同時に、個人的には、この映画のような歪んだコンテンツ(暴力)を描くことで、歪んだコンテクスト(空気)を撃つ時代はすでに終わったのだということを確認させてくれる作品となった。

夢想続きで言うと、中島監督は役者たちにとっては、ある種のセラピスト的存在なのかもしれないなどと、ふと思う七夕であった。

余談

ちなみに七夕の雨は催涙雨というらしい。👉 七夕に降る催涙雨/酒涙雨(さいるいう)とは? - NAVER まとめ

おれは今、登校前の娘が「今年の織姫さん、あの号泣議員さん並みに泣いてるじゃん」と言っていたのを思い出している。

ちなみに、