アンビエント化とは
この本は、電子書籍の世界が我々の書籍に関わる行為に、「どのような影響をもたらし、どのような新しい世界を作り出すのかについて」考察されたものだ。
興味深い考察がいくつかあるのだが、中でもおれの興味を引いたのは「アンビエント化」という用語だ。
アンビエントとは…
『…環境とか偏在とか訳されたりしますが、私たちを取り巻いて、あたり一面にただよっているような状態のことです」同書:p45
佐々木氏はこうした状態(アンビエント化)を、iTunesを例に出して分かりやすく説明する。
『iTunesは、音楽をアンビエントにしました。それまでは音楽を聴こうと思うと、CDプレイヤーに音楽CDをセットしたり、あるいは外に持ち出そうと思うとカセットテープやMDにコピーしたりと、面倒な手間が必要でした。ところが、iTunesによってそうした手間のほとんどは消滅し、いつでもどこでもどんな場面でも、自分が音楽を聴きたいと思った瞬間に手元のデバイスから魔法のように楽曲をひきだすことができるようになりました。これがアンビエント化です』
そう、これがアンビエント化だ。分かりやすいですね。
で、こうしたアンビエント化がもちろん本の世界でも展開されていくというのが、同書の柱のひとつになっている。興味ある人は実際に読んでみてください。
そんなわけで、アンビエント化という言葉に強く反応してしまったおれは、そのアンビエント化を実現するデバイスであるiPad2が気になり、色々と検索した結果たどり着いたのが、広島弁に吹き替えされたこの動画『iPad 2 は、初代の定義したカテゴリをぴしゃっとさすじゃろうの。 - YouTube』だった。
「テクノロジーがどっかしらにのいたとき、すべてがもっとうれしいええもんになる。もっと魔法みたいなもんになるんよ」
「仁義なき戦い」の菅原文太は、強烈な人生哲学を広島弁で我々に語ってくれたが、こんなに簡潔にアンビエント化を説明した広島弁をおれはいまだかつて耳にしたことはない。
そしておれは思う。
英語公用語化が叫ばれている昨今だが、広島弁を公用語化にすべきだと。
そう思いませんか。思いませんね。
話がほんの少しだけ逸れたようなので、元に戻そう。
そう、アンビエント化である。
今後、この流れは一層加速するだろう。
音楽、書籍にとどまらず、われわれの生活のあらゆる物事がアンビエント化していくような気がしている。何が?と言われるとよく分からないと答えるが。
ただ「すべてがもっとうれしいええもんに」なるとは限らないとも思う。
その象徴が今現在、「私たちを取り巻いて、あたり一面にただよっている」放射能だ。
「もっと魔法みたいなもんになるんよ」
確かに。
善かれ悪しかれ、おれたちはマジカルな世紀を生きている。
そしてそれが、できるだけ「もっとうれしいええもん」になるようにしなくてはならない。