長州往還④ Mystery than history
鳥居に『総理・閣僚の靖国参拝定着を』と記された横断幕が掲げられている。神社の鳥居に注連縄以外の物があるのを初めて見た。この呼びかけの主体は「英霊にこたえる会」という団体らしい。
神社境内は綺麗に掃き清められて枯葉一枚落ちていなかった。そしておれたち家族以外他に参拝客は誰もいなかった。
おれは敗戦濃厚となった時期に「このままじゃ日本が負けてしまう!」と自ら志願出兵してそのまま還らぬ人となった父方の祖父のことを思いながら手を合わせる。
その祖父のことはそれ以上の詳しいことはわからない。父親はそのことについて語りたがらない。ただ、戦後父親がいないということで相当嫌な目にあったようだし、そうした父性の不在は後々の人格形成に大きな影響があるということをおれに考えさせる契機のひとつともなった。
日本において父性について考えていくと、天皇制や維新後に生まれた国家神道にたどり着くのはそう難しいことではない。
かなり乱暴に端折って言うならば、「英霊にこたえる会」の根本には敗戦によって不在となった父性への希求があるのかもしれない。
ただ、世界史の流れから見てかつてのような「父権的国家」の復活はかなりの無理筋に思える。しかし、父性は必要である。それではどうすればいいか。どうするのがいいのか。現段階ではまだそれは見えていない。見えていないが、過去にあったようなことはもう起こらないだろうという気がする。
われわれはすでに
それがいいことなのか悪いことなのかはわからない。
世界遺産登録によって静かな城下町だった萩は賑わっていた。