長州往還③ 沈黙のビート/山口常栄寺 雪舟庭
禅僧にして画聖として知られる雪舟が建設した庭園を何年ぶりかに見てきた。龍安寺だったか、あの三島由紀夫の最後の小説『豊穣の海』のラストシーンで主人公がその庭園を見つめながら、「ここには何もない」というようなことを呟くくだりを思い出し、おれも「この庭園には何もない」と心の中で呟いてみるが、本当にそう思ったわけではなく、ただ呟いただけだった。
と、ここでウィキペディアを見てみると、雪舟が関わった庭園は後庭だということを知った。おれは今までこの寺のすべてを雪舟が設計したのだと思い込んでいた。
大内政弘は当時山口に滞在していた雪舟等楊に対して庭園の造営を依頼し、雪舟は寺の北側の後庭を造営したと伝えられている。これが後世に知られる「雪舟庭(せっしゅうてい)」である。その後、大内氏が没落すると、毛利氏はここを山口出身であった尾崎局の菩提寺とし、寺名も妙寿寺と改名した。更に常栄寺の移転によって再度改名することになった。この間、庭園はそのまま維持され続けた。/ウィキペディアより引用
▲以前訪れたときに知ったのだが、正面の池の向こうの岩のどれかは「坐禅岩」と呼ばれ、本堂で坐禅をしながらその岩で坐禅をしている自分を見るというような修行が行われていたという。かなりイカれてる修行だが、修行とは大体イカれてるものだ。リーズナブルな修行など修行ではない。言語道断して初めて感得できるものがある。おれはふと、ウィリアム・バロウズのカットアップ手法を思い出す。
開け放たれた本堂に涼しい風が渡る。
▲裏山を登ると「毘沙門堂」と呼ばれるお堂がある。参拝客用のノートを見ると日本全国様々な地域から人々か訪れていることが知れる。金融関係の仕事に携わる人たちの名刺が数十枚重ねてあった。何かそういうご利益があるのだろうか。残念ながらおれは金融機関に従事してないので、名刺を供えることはしなかった。そもそも名刺を持っていない。
お堂の前の賽銭箱の傍でゴキブリが一匹仰向けになってバタバタと足掻いていたので、そのへんの枯れ木を拾ってひっくり返してやった。
ゴキブリはそそくさと草叢へと消えていった。
おれは子供たちに言う。
「もしかしたらいつの日か、あのとき助けてもらったゴキブリですと何かいいことをもたらしてくれるかもしれないよ。言うなればゴキブリの恩返しだ」
おれは本当にゴキブリが恩返しに来たら、そのときは「いや、大丈夫なんで。気にしないで」と遠慮しようと思いながら再び雪舟庭に戻る。
▲かつての修行者はこの辺りから「坐禅する自分」を見たのだろうか。
▲ローリング・ストーン(転石)という雅号に思わず口元が緩む。
心臓の鼓動がいつもよりはっきりと感じられる。
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