『スルーされない技術』を読んだ
- 作者: 石田章洋
- 出版社/メーカー: かんき出版
- 発売日: 2014/07/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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いまや人間はあらゆるレベルで自己実現が脅かされている
唐突だが、この本を読みながらそんなことが頭に浮かんだ。
若い頃、アメリカに留学して心理学を学んだからだろうか、カリフォルニアの照りつける日差しとマズローを思い出した。まあこれは嘘だが。アメリカンジョークだ。
カリフォルニアなど行ったことも、行く予定も機会もない。カリフラワーはたまに食べる。
それはそれとして、アメリカの心理学者であるマズローの「自己実現理論」によれば、人間の欲求は5段階あるとされている。
まずは、生理的欲求。動物としての本能・生理的欲求。要は、喰って、寝て、排泄をする欲求だ。何てことはない。当たり前の欲求だ。これが欲求だと感じることもあまりないくらいのレベルの欲求だ。
しかし、ひとたび不測の事態が起これば、この最低限の欲求ですら、ままならなくなることがあるのだということは忘れてはならない。そうは言っても当事者でもない限り、すぐに忘れるだろうが。
次の段階は、安全欲求。まあこれはそのまんまだ。大抵の人は危険を避けたいものだ。いきなり誰かに暴力を振るわれたくはないし、振るいたくもない。経済的安定も欲しいところだ。いつまでも病気知らずでいたいものだ。
しかし、ひとたび不測の事態が起これば、こうした当たり前の欲求ですら、ままならなくなることがあるのだということは忘れてはならない。そうは言っても当事者でもない限り、すぐに忘れるだろうが。
で、そのまた次の段階、社会欲求と愛の欲求。何らかの「社会」に所属しているという感覚。人とのつながりを持ちたいという欲求。このレベルまでくると、そろそろ「当たり前」とは簡単に言い切れなくなってきた気がしないでもない。なんせ「リア充」や「無縁社会」などという言葉があるご時世だ。
が、まあこれも「普通」と言えば、普通の欲求だと思う。思いたい。
しかし、ひとたび不測の事態が起これば、誰しも「無縁社会」の住人となることがあるのだということは忘れてはならない。そうは言っても当事者でもない限り、すぐに忘れるだろうが。
そして、次の段階に来るのが、承認欲求だ。
『スルーされない技術』を読んで思い出したのが、この承認欲求だ。
承認(尊重)の欲求(Esteem) 自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求 Wikipediaより
スルーされるのが怖い症候群
著者は、まえがきでそう名付けたが、これはつまり承認欲求が脅かされる不安をカジュアルに表現したのだろう。
そして現代人の多くが薄っすらとあるいははっきりと抱くそんな不安にスポットを当てて、そのノウハウを提案する。
もちろん本書もこうしたノウハウに沿って語られている。👉第2章 スルーされない“つかみ”のルール② そこはかとない不安を煽って始める
当事者意識を持たせる最もポピュラーな方法が不安を煽ることです。 p67
曰く、スルーされないためには、「不安でつかんで安心で落と」す技を心得ておくべし。
これ以外にも、多くのスルーされない技術が紹介されている。例えば、
相手に合わせた言葉で伝える
最初に相手の名前を呼ぶ
「謎」を含ませて話し出す
…こうして抜粋すると、何やら怪しげな人心操作術のようだが、そうではない。
これらの「技術」は、著者が、放送作家として30年にわたり、培った確かな知見であり、実践すれば「スルーされない」ばかりではなく、高確率で相手を笑顔にすることができるだろう。
人を笑顔にさせる。
実は、これこそが「スルーされない技術」の極意なのだと、さりげなく本書は教えてくれる。
と、ここで終わりたいところだが、続きがある。
マズローだ。
人を笑顔にさせることで、あなたは「スルー」されなくなる。それによって、あなたは他者から注目を浴びて、うまく行けば尊敬さえされるだろう。あなたのFacebookは「いいね!」が連打されるだろう。あなたは、「スルーされていた」ことなど前世の出来事のように感じるだろう。
だが…とマズローは言う。
そこに留まるのは危険だと指摘している。おそらく「慢心」が生まれるからだろう。違うかもしれないが。
とにかく、マズローは、その先に進めと言う。その先があるのだと言う。
つまり、
自己を承認すること。自己を信頼すること。スキルを向上させること。自立すること。
自分をスルーしないこと。
本書を読んで、そんなことを考えた。考えさせられた。
カリフォルニアの照りつける日差しを思い出しながら。
もちろんアメリカンジョークだ。