ROAD TO NIRVANA

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猿の心、この書を開くべからず/『人を操る禁断の文章術』レビュー

人を操る禁断の文章術

人を操る禁断の文章術

おそらく、禅の教えから来ているのだろう。モンキーマインドという言葉がある。

「人の思考」は、奇声を上げながら次々に木々の枝に飛び移り、およそ落ち着くことがない猿のようなものである、という意味だ。

本書のまえがきを読んだとき、一番最初に浮かんだのは、そんな「モンキーマインド」のことだった。

では、質問です。

「あなたの思う、世界最高の美女とは?」 p.3

この質問で、あなたのモンキーマインドは、密林の静寂を打ち破り、木々をゆさゆさと揺さぶり始める。

じつはこれこそ、文章の持っている力なのです。ある言葉を目にすることで、人は想像し始めます。 p.5

本の帯には、たった一行で、人は踊らされるとある。

そうかもしれない。

「人」即ち思考、即ちモンキーマインドだとするなら。

そんな前提で本書を読むあなたはここに書かれている数々の 文章術 メンタリズム を獲得し、精進の末立派な「猿回し」芸人になれるかもしれない。

ただ、そうだとすれば、あなたは本当の「人」を相手にしてはいない。

なぜなら、あなたが操ろうとしているのはモンキーマインドだし、何よりあなた自身のモンキーマインドが人を操ろうとしているからだ。

人を操ろうという意図はモンキーマインドからしか生まれない。

理由はあなたの胸に聞けばすぐに分かるはずだ。

自分の胸に聞いたあなたのマインドは静まる。密林を静寂が満たす。

その静寂のまま、まるでグラス一杯に注がれた水を一滴も零さないようにして、あなたは再び本書を開く。

すると、そこには、騒々しいモンキーマインドでかき消されていた小さな声が囁いていたことに気づく。

あなたは木陰に腰を下ろし遠くから聞こえてくる苔むした岩や草花の声に耳を傾ける。それは懐かしい音楽のようだ。

そしてあなたは思い出す。いつかどこかで聞いた当たり前の話を思い出す。当たり前過ぎて、とうの昔に忘れていたことを思い出す。

自分のことばかり分かってもらおうとしないこと。

外面を取り繕うことに気を取られないこと。

相手の心の声に耳を傾けること。

人を操ろうとしないこと。

本書のタイトルに用いられている「禁断」とは、モンキーマインドで満たされた「下心」に向けられたアラートだ。

下心を持つ者は、メンタリズムは使いこなせない。

危険物を取り扱うには資格が必要なのと同様に、メンタリズムを扱うにも資格が必要だ。

その資格とは、信頼と愛情だ。

あなたはその資格を持っているだろうか。

伝えたい相手に信頼と愛情を持っているだろうか。

まずそれを自問することだ。自問して、あなたの中で騒ぐモンキーマインドを鎮めることだ。

先に引き合いに出した「猿回し」もこの「資格」なくして大成することはないだろう。

するはずもない。

本書は、レビュープラスさんより献本いただきました。